標高3000m、そこは神がいる場所
日本第二の高峰、南アルプス・北岳。
正午頃、僕ら11人は標高3000m付近の山小屋に到着した。
山小屋は古くて薄暗かったけれど、僕はそこに外の世界にはない人間の温かさを感じた。
壁一枚隔てた外の世界はといえば、台風並みの強風と濃い霧で、完全にグレー一色の世界。気温も真冬並みの寒さだった。
b0069430_22294743.jpg

< 写真は山小屋付近のテントサイト>
* * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * *

b0069430_22372425.jpgこの日、僕らは早朝から山に登り始めていた。前日、皆仕事終ってから2台の車でここに深夜2時過ぎに来て、2時間ほどの仮眠を取っただけなので、皆が軽く睡眠不足の状態。

朝4時過ぎ、雨が降りそうな天気だったが、なんとか持ちこたえてくれと、空に祈った。その思いが通じたのか、この日は小雨がぱらつくことがたまにある程度で済んだ。どんよりとした雲が太陽の熱を遮り、代わりに涼しい風が僕らの背中を押してくれて、登山はすばらしく順調だった。今もなお雪が残るところや小川を越えて、周囲に樹木がなくなってきた頃、上に行くにつれて強い風が吹き始めた。





b0069430_22383815.jpg

b0069430_22392332.jpg

そして、半端じゃないくらいの強風が吹き始め、気温もぐっと下がったように思った。周りは霧で、視界も良くない。先頭を歩いていた僕が振り返ると、後ろにいる10人のうち、5人くらいまでしか認識することができないくらいだった。
酸素も心なしか薄くなっているような気がした。

それから山小屋に着くまでは、皆がフードを被り、着ているジャケットがバタバタと風にあおられながらも、一歩、また一歩と上を目指して歩き続けた。
急な岩場では、両手を使って、急傾斜をよじ登っていく。もし、歩いている尾根の登山路を1mでも横に踏み外そうものなら、一気に南アルプスの深い谷へと吸い込まれることになる。
そういう現実に直面したせいか、ここは簡単に死ぬことができる世界だとひとり思いにふけながらも、まだ死にたくはない、死んでたまるかと思った。
b0069430_22394624.jpg

山小屋には午後3時に着く予定だったが、昼頃には着いた。一人当たりのスペースは幅70cm程度だったが、富士山の山小屋に比べたら、ずっとマシだと思った。就寝時間までたっぷり時間があったし、皆それぞれが思い思いに時間を過ごしていた。寝るもの、何かを食べているもの、ストーブの周りで語るもの、僕は友人と「これから」について熱いトークを交わしていた。
夕飯は持ってきた鍋でご飯を炊いて(ストーブの火を借りて・・・)、カレーを食べた。
みんなで丸くなって食べるカレーは格別に美味かった。

ご飯が食べ終わった頃、窓からの光が強くなり、薄暗い山小屋の部屋が一瞬明るくなった。
カメラを持って、山小屋から外に出ると、さっきまで薄暗いグレー一色だった世界が明るさを帯びていた。実際はまだ雲に囲まれていたが、そこから一瞬、雲の隙間から夕陽の光が見えたのを僕は逃さなかった。明日、ご来光が望めるくらい晴れるかわからないけど、これはきっといい兆しなんだと思った。
b0069430_2248449.jpg



翌朝(深夜)3時半に起きて、僕らはご来光の瞬間を山頂で迎えるべく、登りはじめた
そして、僕は不思議に思った。
昨日の暴風がウソなんじゃないかと思うくらいに無風で、東の空も晴れている。
昨日の状況からすると、想像できないくらいに、全てが好転していた。

登り始めて30分ちょっとした頃、僕らは無事に山頂に立った。
11人全員が、無事に頂上に到着。手と手をハイタッチで交わす瞬間、
皆の顔には達成感と喜びであふれていたように思える。

そしてその5分後。
皆の顔を赤く照らすように、日の出がはじまった。

b0069430_2227241.jpg

最高の気分だった。充実感でいっぱいだった。
ゆっくり上りはじめた赤い光を眺めながら、僕はあまりにも出来すぎているこの展開に、そこにある大きな何かを感じた。

のぼりゆく太陽の横には富士山が見えた。
ちょうど一年前の同じ頃も、富士山の頂上でご来光を眺めていたのを、
特別な想いで思い返していた。もう、あれから1年が経ったんだと。

しばらくして、僕らは下山することにした。
富士山の単調な下山路に比べたら、標高ごとに変わっていく植生を眺めたりできて楽しいなと思っていた。途中までは・・・。
予想以上の、容赦ない下山路。木の根っこに足を置いて、ジャンプして飛び降りたり、木の梯子を下って降りたり・・・。

正直言って、こんな辛いとは思わなかった。
行きのコースでは、高齢者の登山同好会らしきグループもたくさん見かけたが、こちらのコースにはそういうグループは一切見かけなかった。登山部の学生らしき若者ばかりで、
とことんストイックなコースだと思った。
何度、パラグライダーで下山できたら・・・と考えただろうか。
個人的には富士山よりしんどかった・・・。

そして、登山行く前日に見た、ある方のブログの記事を思い出した。
そこには、本からの引用が紹介してあった。
===============================================

山に入るということは

母の胎内にもどる 胎児にもどる ということなのだよ

そして 胞衣(えな)をつけて山を下り もう一度産まれなおす

つまり 生きながらにして 生まれ変わる行なのさ

そうやって再生をくり返しながら 自分自身を高みへと昇らせる



母の懐で 自分を完成させてゆく そのために まず神妙に

しかし勇気をもって 自分のヤブから一歩踏み出すのだ

全体を知るために

全体に近づくために

(Sさん、文章をお借りしました)
===============================================
b0069430_2242733.jpg

この日の出来事は、あまりにもすごすぎて夢だったんじゃないかと思えるほどだけど、今なお足に残っている筋肉痛が夢でも幻でもなく、現実に起こったことなんだと静かに教えてくれる。

そして最後に思った。
山で体験した感動を、文章にしようとしても、あまりにも難しくて、自分の文章能力では表現できない。だから無理してでも、書こうと思った。言葉を越える、感動に出会ったら、その感動を書き記すことはあきらめて、今の自分に書けることだけを書こうと。
[PR]
by shuxaku | 2007-08-09 22:15 | +++ Outdoor +++
<< 日本の夏。男二人、浴衣でキャンプ。 スロースタイル >>